蔦(ツタ)の森

蔦(ツタ)の森

<トムソーヤクラブ通信 Vol.44、1997/04/15、ふれあいランドより転載>

昨年から青森県十和田湖町(現在は十和田市)、
山峡のいで湯「蔦温泉」へと通っている。

夏、緑の季節に三度。冬、白い積雪期に二度。
もちろん蔦温泉旅館のブナ材の浴槽にふつふつとわき出る湯につかるのは、
これぞ極楽といった趣なのだが、周辺に広がるブナを中心とした深い森が素晴らしい。

蔦温泉宿の創業は明治42年。
当時、材木を運べるような道はなく周辺の森の木を切り出して製材し宿を建築したそうである。本館として当時のまま使われる玄関や帳場の雰囲気は、これぞみちのくの温泉宿といった風情でトチノキ、カツラなどの材が多く使われている。

また蔦温泉は、文人・大町桂月が十和田湖、奥入瀬と共にこよなく愛し、
そしてこの地で旅立ったことでも知られる。
桂月は亡くなる二か月ほど前に本籍を蔦に移している。

「極楽に 越ゆる峠の 一休み 蔦のいで湯に 身をば清めて」
これは桂月の辞世である。

さて、十和田国立公園に位置する蔦温泉周辺の森は“蔦の森”と呼ばれ、
ブナをはじめとした落葉広葉樹の大木に覆われている。
沢筋にはトチノキ、カツラ、サワグルミ、その他はブナを主体に
ミズナラ、ホオノキ、ハリギリなどの樹種が混じる。

昨夏、初めて蔦の森をめぐったときは、
緑の光の中にすっすっとそびえるブナのグレーの樹皮が輝き、
さわやかな風が流れ、遠くからキツツキのドラミングが聞こえる、、、
といった具合で最高の印象を持ち帰ることができた。

そして今年三月初旬、数メートルの積雪におおわれた同じ森を訪ねた。
足元にはテレマークスキーをはいて、明るく見通しのよい森をサクッサクッ、シューと進む。
葉をすべてふりはらってしまった冬の森は、凛として気高い。
これが夏のあの森と同じ場所なのかと驚かされる。

多量に積もった雪は、夏の道とは関係なく
スキーさえあればあらゆる場へ進んでいくことを可能にしてくれる。
この森に住む多くの命は白い冬から緑の夏の間、芽吹きと落葉を繰り返し、
その営みと共に生き、生かされているわけで、、、
そんな思いに身体も心もぼっーとさせられてしまった。

蔦温泉の効能も手伝ってのことかもしれないが、
あの森で感じたそんな思いは二週間をすぎた今も続いている。

「春の芽吹きの頃も最高に美しいですよ」
との誘いにのってしばらくは、蔦の森へと通い続ける予定だが、
「山滴る夏」そして「山眠る冬」に続く蔦の森の春の微笑みは、
果たしてどんな様子なのかわくわくと期待をふくらませている。

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